100日後にスペインに行く人

スペイン語初心者の学習記録

Alberta

カナダのアルバータ州をご存知だろうか。世界遺産に登録されているカナディアン・ロッキーや、冬季オリンピックが開かれたカルガリーには、日本からも例年多くの観光客が訪れている。

 

さて「アルバータ」という名前は、1875年、ヴィクトリア女王の夫・アルバート公にちなんで名付けられた。ここで気になる(気にならないかもしれないが)のが、人の名前は「アルバー」なのに、土地の名前は「アルバー」だということである。

 

スペイン語学習者なら、ここであることに気がつくかもしれない。それは、男性名詞と女性名詞という概念だ。スペイン語では、あらゆる名詞に「性」があり、一般に -o で終わるものは男性名詞、-a で終わるものは女性名詞に分類される。当然ながら「人の名前」も名詞なので、例えば Mario は男性の名前、Maria は女性の名前である。また、日系人として初めてペルーの大統領に就任したフジモリ元大統領の名前は アルベルト Alberto だ。

 

この規則性をもとにすれば、冒頭に挙げたアルバート公アルバータ州の違いは、名詞の性によるものではないか?という仮説が立てられる。

 

実はアルバータに限らず、世界にはアルファベットの a で終わる国名や州名が多い。アメリカ、オーストラリア、イタリア、カリフォルニア、ジョージア・・・。もっと大きなスケールでは、アジアやアフリカ、オセアニアといった単語も該当する。ここで注意したいのが、上に挙げた地名は必ずしも英語に由来するものではないという点である。イタリアは英語で Italy で、イタリア語で Italia である。したがってこの規則性は、汎ヨーロッパ的なものと言えるのではないか。

 

そうすると、ではなぜ地名が女性名詞なのか?なぜ「アルバート州」ではないのか?という疑問が生じる。

 

この辺りまで考えたところで、正解(とされる言説)を調べてみると、起源はラテン語に求めることができるようだ。堀田*1によれば、

文法性をもつヨーロッパの他の言語が国名をどの性で受け入れたかは,各々であり,必ずしも一般化できないようだが,文法性を失った英語において擬人的に女性受けの傾向が生じたのには,ラテン語の力があずかって大きいといえるかもしれない.(中略)ラテン語では -ia のみならず -a も女性語尾であり,これによる国名・地名の造語もさかんだった (ex. Africa, Asia, Corsica, Malta) .

とある。

 

今日の英語においては、男性名詞・女性名詞という概念は消滅しているものの、船や空母に対して女性代名詞 her を使うように、漠然とした男女のイメージはわずかながら残されている。カナダ中西部への入植が進んだ19世紀の人々も、きっとそんなイメージを持っていたに違いない。無論、当時のイギリスの知識人はみなラテン語の素養があったので、より明確な意思をもって「アルバータ」と名付けたのかもしれない。

 

いずれにせよ、ヨーロッパから遠く離れた北アメリカ大陸の地名に、ラテン語の痕跡と、ラテン語をもとに形づくられた西洋文明の痕跡を感じずにはいられない。

*1:堀田隆一, "なぜ国名が女性とみなされてきたのか. ", http://user.keio.ac.jp/~rhotta/hellog/2012-02-19-1.html