100日後にスペインに行く人

スペイン語初心者の学習記録

Any doubts?

この記事では、スペイン語のネイティブスピーカーならではの英語表現、言い換えれば、やや語弊があるが「スペイン語特有のクセがある英語表現」をいくつか紹介したい。

同じような着眼点で書いた記事があるので、こちらもぜひお読みいただければと思う。

h13a.hatenablog.com

 

Do you have any doubts?

プレゼンや何らかの説明を終えた後に「ご質問はありますか?」と聞くことがある。あるいは「もしご質問がありましたらいつでもご連絡ください」といったように伝えることもある。

 

こうした場合、英語では Do you have any questions? とか If you have any questions, ... のように、question という単語を使うことが多い。また、英語には doubt という単語もある。doubt は疑問・疑念といった心理状態を表し、それを言語化したものが question といえる。しかしスペイン語話者からは

Do you have any doubts?

というフレーズをよく聞く。なぜだろう。

 

これはおそらく、スペイン語

Tienes alguna duda?

の直訳だからだろう。duda と doubt はどちらもラテン語の dubitare に由来する同根語だ。したがってスペイン語話者は、使い慣れた表現の直訳がしっくり来るのだろう。

 

なお、英語の question とよく似たスペイン語の cuestión は、典型的な false friends だ。cuestión には「問題」とか「論点」といった意味があり、「質問」の意味は無い。

 

ここまでの説明で、質問はありますか?

Which is your favorite color?

英語において、答えの選択肢が無限に存在する質問では、疑問詞 what が使われる。一方で、限定された選択肢が話者の間で共有されている場合は、疑問詞 which を使うことができる。

 

よって、英語で「好きな色はなんですか?」と尋ねるには、

What is your favorite color?

となるはずだ。Which が使われるとしたら、例えば目の前に2本の色鉛筆があり、

Which is your favorite color, red or blue?

といったような場面に限られるだろう。

 

しかし、スペイン語話者には、不特定多数の選択肢を問う場面でも which を使う人が多い。これは、疑問詞の使い方が英語とスペイン語で微妙に異なることにある。

 

スペイン語には qué と cuál という疑問詞があり、それぞれ what と which に対応していると説明されることが多い。しかし実際には、英語の which が、その会話において限定されている選択肢を問う際に使われるのに対し、スペイン語の cuál は、想定される答えがある程度限定されている場合にも使うことができるのだ。

 

好きな色を聞かれた人は、色というものの中で、どれか特定の色*1を選んで答えることになる。好きな色を聞かれて「ラーメンです」と答えるのは、一般的なコミュニケーションとしてはかなり難がある。

 

¿Cuál es el idioma oficial de España?「スペインの公用語は何(どれ)ですか?」といった例文はもっとわかりやすい。言語という括りの中のいずれかであるから、答えの範囲は限定されている。

¿Cuál es tu plan de vacaciones?「あなたの休暇の予定は何(どれ)ですか?」も、休暇中の予定という範囲内から答えが返ってくるはずなので、cuál でよいのだ。

説明が長くなってしまったが、英語とスペイン語の疑問詞の違いは、我々のような外国語学習者にとっても厄介だが、ネイティブスピーカーにとっても厄介なはずだ。冒頭のような英文を聞くと、やや違和感があるが、そういうものだと思ってしまえば大したことはない。

 

It is mandatory the use of mask

この文字列が書いてあったのは、バレンシアのメトロの車内に貼ってあったポスターだ。

It is 名詞 + 名詞という構文は、珍しい。というか文法的に正しいのだろうか?

It is 名詞 that S V という形であれば、that 節の目的語を前に出して強調した形か、あるいは it が that節全体を指している形の2つが考えられる。それぞれ強調構文と形式主語構文と呼ばれることがあるが、まあそれはどうでもいい。

この、2つの名詞が連続する構文、言いたいことは伝わる。形式主語構文、つまり the use of masks は mandatory だと言いたいのだろう。

 

スペイン語ではこうした構文が頻繁に用いられている。

Es obligatorio el uso de mascarilla

これを英語に逐語訳すると

(It) is mandatory the use of mask

となるのだ。

スペイン語文法の影響を受けていると言えるだろう。

 

ちなみに Google 検索でこのフレーズを検索してみると、上位10件はいずれもスペインの企業や官公庁のウェブサイトであったり、ポルトガル*2の感染対策に関する記述の中で用いられていた。

Google検索の結果

もしより自然な英文にするには、例えば

It is mandatory to wear a mask

のように it ... to の構文を使って、名詞ではなく動詞を使うとよさそうだ。

 

*1:色の数は有限なのだろうか。例えば日本人は、虹の色を7色だと認識するが、欧米では6色だったり5色だったりする。可視光線のスペクトルをどこで切り分けて個々の色を認識するかは、文化によって異なる。

*2:スペイン語ポルトガル語文法は、時制の使い方が若干違う程度で、極めて類似度が高い。