階数の謎
私の住んでいるアパートメントのエレベーターには、日本やアメリカでは見慣れないボタンが2つある。「PB」と「PRAL」だ。そして私が住んでいるのは4階だが、パティオから外を見下ろしてみると、地上から4番目の高さにあるわけではないことに気づく。
まず前提として、ヨーロッパでは、地上階を「0階」とするのが一般的だ。この呼び名は国や言語により異なり、イギリスでは Ground floor、スペインでは Planta Baja と呼ばれている。エレベーターにある「PB」のボタンは、この頭文字だ。
では「PRAL」とはなんだろう?これは Planta Principal の略称だ。企業の「本社」のことを Oficina principal と呼ぶように、スペイン語の principal という単語には「他のすべてに優越する」といった意味合いがあるように思う。
かつてエレベーターが一般的ではなかった頃、階段を上らずに済む低層階は人気かつ高価だったそうだ。逆に高層階や屋根裏部屋は、使用人であったり、どちらかというと貧しい人のための部屋だったという。低層階が便利なことは疑いようがないものの、地面と同じ高さの階には欠点がある。道路に面していて、騒音がうるさかったり、ほこりが窓から入ってきたりしただろう。そこで、地上から1つ上の階が、快適さと便利さを兼ね備えた Planta Principal として重宝されるようになったそうだ。
改めて階数と呼び名を整理してみよう。地面を基準として、順に Planta Baja (PB)、Planta Principal (PRAL)、1階、2階、3階…となっている。つまり、表記上の「1階」は、実際には3階に相当し、私の住んでいる4階は6階に相当することになる。
それならば、Planta Principal の次は「2階」でもよかったのではないか、なぜ紛らわしい「1階」という名前なのか、という疑問については、質問掲示板 Quora にとあるユーザーからこんなコメントが寄せられていた。いわく、実際の高さよりも低く見せかけると、セールストークをするのに好都合だったからではないか?というものであるが、真相のほどは定かではない。
ちなみに私のアパートメントは建設当初からエレベーターが設置されていたようなので、すでに Planta Principal の優位性は薄れてしまっていたと思われる。とはいえ、外壁の色や窓の造作がこの階だけ違っているのは、かつて Planta Principal が貴ばれていた時代の名残りなのかもしれない。